2019年8月12日月曜日

曲目解説(3)

<ベートーヴェン  交響曲 第8番  へ長調 作品93>
 交響曲と言う形式が完成され始めた頃、その完成度を最高潮までに高め、更に様々な可能性を見出した作曲家がベートーヴェンでしょう。9つ書かれた交響曲は各々個性が違い、新しい試みが積み込まれ、まるで交響曲の標本のように思われます。
  では、今回演奏いたします第8番ですが、この交響曲標本箱の中ではテーマもなく、大きな特徴もなく、古典的でコンパクトなピースです。おっと!決っしてつまらないものと言いたいわけではなく…個人的には標本箱の中で最も好きです。劇的なインパクトや目新しい仕掛けなど個性が光る作品達の中、無色透明でシンプルに輝くダイヤモンドのような。
 初演は、1814年の2月27日、交響曲第7番などとともに演奏されました。前年の12月にop.92となる第7番の交響曲を発表しており、この2つの曲は、1812年前後の2・3年位の同時期に書かれたそうです。新曲の初演だと言うのに聴衆の人気は7番のほうに集中してしまいベートーヴェンは「聴衆が8番を理解できないのはこの曲があまりに優れているからだ」と語ったそうです。
 第1楽章 Allegro vivace e con briocon brio
  (快活に)とあるように、華々しい3拍子。第5番(運命)の時の出だしのように、
  主題となるフレーズがいきなりtuttiで演奏され、とても効果的に華やかな曲の
  イメージを印象付けています。
 第2楽章 Allegretto scherzando
  まるで時計のように木管がリズムを刻む中、弦がメロディを歌います。
 第3楽章 Tempo di Menuetto
  複合三部形式(A_B_A)のメヌエット。よく取り入れる楽式ではありますが、
  ベートーヴェンが交響曲の楽章として用いたのは、この曲のみです。
 第4楽章 Allegro vivace
  印象的な早い6連符のリズムより構成される。sfが多用され強弱が激しく
  入れ替わったり、意表をつく転調があったり疾走感のある軽快な曲です。
 この曲全体に言えることですが、華やかさと疾走感を感じます。それはメロディが…と言うより伴奏、内声のリズムが大きく関係していると思います。そこが作曲家ベートーヴェンの腕の見せ所と言っても良いかも知れません。メロディだけ切り取ってみると、特別心打たれるような劇的なフレーズだったりするわけでもなく、簡単で誰もが歌いやすいモチーフ、時には単純な音階であったりします。そこを内声が彩るわけですが、ベートーヴェンはここぞ!と言う所で、とにかく和音をキャベツの千切りのよう細かく刻ませる。和音の連打連打で…盛り上がって行くと、メロディまでつられて刻ませちゃう。
 そう言えば、カッティングが細かいダイヤモンドはより多くの光を取り入れ輝きを増すとか。ベートーヴェンの絶妙なカッティング技に、是非注目してみて下さい。
 さて、ベートーヴェンには、珍しく!?︎この明るく軽快な曲が書かれた背景には、彼の人生の中でも最も充足していたであろう日々が影響していると思われます。パトロンである侯爵に対して「これまで侯爵は数限りなくいたし、これからももっと数多く生まれるだろうが、ベートーヴェンはこの私一人だけだ!」と言ったそうな。作曲家として順風満帆、自信に満ちた活動がされていたことでしょう。また、実は恋多きベートーヴェン。この頃も素敵な女性がいたようです。今のご時世では、謝罪会見ものの恋に身を焦がしていたようです。
 ベートーヴェンの死後、机の中からこの頃書かれた3通の手紙が見つかります。宛て先は『不滅の恋人』。一体誰なのか(候補が10人位いるらしい)。そして、その情熱的な内容と、なぜ送られることなく長い間しまわれていたのかが、興味をそそられ、映画や小説に取り上げられたり。未だに解明されない謎として研究され続けております。
  なお、彼の9つ書かれた交響曲のうち、この第8番のみ誰にも献呈されませんでした。贈られることのなかった曲とラブレター、どことなく他では見られないベートーヴェンの内面に触れられたような気がして感慨深いです。
(ヴァイオリンA)

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